「女性史青山なを賞」 受賞作品紹介

第38回受賞作 水戸部 由枝『近代ドイツ史にみるセクシャリティと政治ー性道徳をめぐる葛藤と挑戦』(2022 昭和堂)

ドイツ・ヴィルヘルム時代の市民社会における、ジェンダー秩序の生成、性の規範化プロセスとそれによる女性の管理、新しい性道徳の意義、を明らかにすることで、性と政治社会の関係性を考察し、現代におけるセクシュアリティをめぐる問題の理解・解決への手がかりとしたい。

第37回受賞作
宮下美砂子『いわさきちひろと戦後日本の母親像――画業の全貌とイメージの形成』(2021 世織書房)

いわさきちひろに託された〈母親像〉とは何だったのか。ちひろの画業と現代社会に生きる母親たちのあり方をジェンダーの視点から捉え直し、初源に立つちひろの思いを新たな可能性へと解き放つ。

髙木まどか『近世の遊廓と客――遊女評判記にみる作法と慣習』(2021 吉川弘文館)

多くの文学や歌舞伎の題材とされ、文化の発祥地という華やかな一面を持つ近世の遊廓。そこでは日常の身分秩序は排除され、すべての客は差別なく平等に扱われるとされた。その言説に疑義を唱え、吉原遊廓を中心に実証的に分析する。遊廓に遊ぶ人の目線で記した遊女評判記から、遊女や店との関係、さらに客同士の関係性を描き出し、その実態に迫る。

第36回受賞作   桑原ヒサ子『ナチス機関誌「女性展望」を読む - 女性表象、日常生活、戦時動員』(2020 青弓社)

1932年から敗戦直前までナチス政権下で発行された「女性展望」は、性別的役割分業と良妻賢母を”理想的”な女性像として伝達するプロパガンダ雑誌であった。本書は、戦後ドイツの記憶から消し去られていた機関誌を掘り起こし、ナチス政権下において社会的地位向上を目指して活動を展開した女性達の実像に迫った初の研究書である。約300点の貴重な図版を所収。

第36回受賞作(特別賞) 国立歴史民俗博物館編『性差の日本史』(2020 代表 横山百合子)

2020年の秋から冬にかけ、国立歴史民俗博物館で開催され、大きな話題をよんだ企画展示「性差の日本史」展の内容をまとめた図録。日本でいつ「男」と「女」が生まれたのか?日本の歴史の中で、ジェンダーはどのような意味を持ち、どう変化してきたのか?驚きと発見に満ちた、ビジュアルな一冊。現在手にしうる最高の日本ジェンダー通史。

第35回受賞作   中島 泉『アンチ・アクション - 日本戦後絵画と女性画家』(2019 ブリュッケ)

戦後日本美術史において隆盛した男性中心主義の「アクション・ペインティング」への評価に対し、女性美術家の挑戦を可視化し、「アンチ・アクション」として再評価する流れを作った作品。草間彌生・田中敦子・福島秀子という独自の作風を作り上げた3人の作品を取り上げ、戦後の美術史研究に一石を投じている。

第34回受賞作   田中亜以子『男たち/女たちの恋愛ー近代日本の「自己」とジェンダー』(2019 勁草書房)

近代日本に登場した「恋愛」という観念は、男女に何をもたらしたのか。恋愛をめぐる男女の社会的・歴史的経験を豊富な史料を基に分析している。異性間のみならず、男同士・女同士の恋愛をも描き出した独創的視点の作品。

第33回受賞作  関口裕子『日本古代女性史の研究』(2018 塙書房)

古代史における女性史研究の重要性を、日本の歴史発展の解明における課題と関連づけて鋭く問い続けた、故関口裕子氏の研究を、4名の研究者が次世代の女性史研究の架け橋となることを願って編集した作品。

第32回受賞作  工藤庸子『スタール夫人と近代ヨーロッパ  ー フランス革命とナポレオン独裁を生きぬいた自由主義の母』(2016 東京大学出版)

革命勃発時のパリに生き、スタール男爵の妻となったジェルメーヌ(1766-1817)は、並々ならぬ情熱で革命に参加し、卓越した政治論を残した。独裁に抗いながら、「国家からの自由」を求め続けたスタール夫人の政治思想と生涯を、綿密な分析を通して描き出した「知性の評伝」。

第31回受賞作  胡 潔『律令制度と日本古代の婚姻・家族に関する研究』(2016 風間書房)

古代日本の婚姻習慣・家族形態を、外来文化、特に中国の律令制度導入との関連から考察している。中国の父系性の諸原理をどのように古代日本社会と整合させたのか。記紀などの漢字文献と仮名文学作品とを比較・精読し、解明へと導く1冊。

第30回受賞作  伊集院葉子『古代の女性官僚 -女官の出世・結婚・引退』(2014 吉川弘文館)

日本古代の宮廷で活躍した女官を、寵愛対象・侍女といった見かたではなく、女性官僚と位置づけ、天皇の政務と日常生活を支えた女性の生き方として描いた作品。現代女性の職業・結婚・余生までのライフコースにも通じる1冊。

第29回受賞作  吉良智子『戦争と女性画家 – もうひとつの近代「美術」』(2013 ブリュッケ)

アジア・太平洋戦争下の女性の労働を描いた大作「大東亜戦皇国婦女皆労働之図」と女流美術家奉公隊の実態の解明を通じて、一人の女性画家の生涯、さらには戦時下の女性の社会的立場をも紐解いていく。ジェンダーの視点による日本女性史であり、絵画史、戦争史でもある画期的作品。

第28回受賞作  坂井博美『「愛の闘争」のジェンダー力学 - 岩野清と泡鳴の同棲・訴訟・思想』(2012 ぺりかん社)

明治末~大正中期の女性活動家・岩野清と自然主義作家・泡鳴との、同棲・結婚・別居・訴訟・離婚というライフヒストリーを通じて、まだ「自由な恋愛・結婚」という概念が確立していない時代に生きた岩野清の、苦悩・葛藤を綴った小説『愛の闘争』を重要な女性史として解析した作品。妻側から出された日本最古の離婚裁判闘争の事例でもあり、近代家族を志向する女性の闘いを描き出している。

第27回受賞作  永原和子『近現代女性史論 - 家族・戦争・平和』(2012 吉川弘文館)

良妻賢母の名のもとに女性が戦争協力を余儀なくされていく過程と、戦後の平和と自立へのたゆみない歩みを解明し、女性史の今後への展望を示している。男女共同参画時代を迎えた現在においてもなお、さまざまな課題に取り巻かれる女性たちに参考となる作品。

第26回受賞作  池川玲子『「帝国」の映画監督 坂根田鶴子 – 『開拓の花嫁』・一九四三・満映』(2011 吉川弘文館)

「満州国」で活躍した女性映画監督・坂根田鶴子が監督した、『開拓の花嫁』を移民プロパガンダ映画として分析。政治的・社会的要請に基づきながら、女性の目線でつくられた「国策」映画が、大日本帝国によるアジア侵略全体の中で果たした役割を追求した作品。

第25回受賞作  小山静子『戦後教育のジェンダー秩序』(2010 勁草書房)

戦後日本の教育を、「男女に等しく開かれた教育制度」という枠組みと、ジェンダー思想的教育という内実の二重構造と捉え、男女共学制と女子高等教育を通じて紐解く。こうした構造が生じた経緯や問題点を、教育関連審議会議事録・新聞・雑誌など、豊富な史料を基に分析し、戦後教育が抱え持つジェンダー的階層性を浮き彫りにしていく

第24回受賞作  萩野美穂『「家族計画」への道 -近代日本の生殖をめぐる政治』(2008 岩波書店)

こどもを「つくる」かどうかは計画的に決めるもの、という考え方は、どのように「常識」になっていったのか。子どもの数を調節するための避妊や中絶という生殖技術をめぐって、国家と女たち・男たちの価値観・思惑はどのように交錯したのか、その道筋を明治から現代までの言説をたどり考察した作品。

第23回受賞作  渡辺周子『<少女>像の誕生 -近代日本における「少女」規範の形成』(2007 新泉社)

明治期以降の日本において新たに定義された「少女」という存在。妻となり母となる役割を担う前の「少女」が、社会の求める規範によって、いかなるジェンダー的存在を形成していったのかを、「愛情」規範、「純潔」規範、「美的」規範の形成に照準して解明している。文学・芸術などの豊富な図版の解釈を用いた刺激に満ちた研究書。

第22回受賞作  柳谷慶子『近世の女性相続と介護』(2007 吉川弘文館)

江戸時代、女性は「家」の継承と運営にどう関わったのか。女性による武家相続、大名家の奥向改革、姉家督などの継承事例を、盛岡藩・仙台藩などを例に考察。また後半は、介護を支える家族の役割を、武士の「看病断」などから探り、近世の女性と家族のあり方を解明した作品。

第22回受賞作(特別賞)  田間泰子『「近代家族」とボディ・ポリティクス』(2006 世界思想社)

「少子化現象」を根本的に問い直す - 戦後の家族計画運動によって、我々はなにを得て、なにを失ったのか。家族と女性たちの身体に起きた社会変化の過程と生殖の統制をボディ・ポリティクスとして複眼的に捉え、近代家族論に新たな光を当てた作品。

第21回受賞作  川島慶子『エミリー・デュ・シャトレとマリー・ラヴワジェ -18世紀フランスのジェンダーと科学』 (2005 東京大学出版会)

「女性の世紀」を代表する二人の「才女」- 数学・物理学に精通し、ニュートンの『プリンピキア』を初めて仏訳したエミリーと、「化学革命の父」ラヴワジエの研究を支えたマリー。新たなジェンダー的視点が科学史に切り込む。

第20回受賞作  野村育世『仏教と女の精神史』(2004 吉川弘文館)

日本の女たちは「女性差別」を含む仏教思想をどのように受け止め、信仰を深めたのか。中世の女性観の変遷と歴史の表面にあらわれない女性たちの心の動きを、説話や古文書、絵画などを通して、幅広い視点から読み解いた1冊。

第19回受賞作  井野瀬久美惠『植民地経験のゆくえ -アリス・グリーンのサロンと世紀転換期の大英帝国』(2004 人文書院)

女性初、西アフリカを探検したメアリ・キングスリと、「アフリカ協会」設立者のアリス・グリーン。イギリスに生きた二人の女性が経験した植民地での体験を詳細に追い、支配する側からではなく、支配される側から照射された大英帝国の本当の姿を描き出した作品。

第18回受賞作  曽根ひろみ『娼婦と近世社会』(2002 吉川弘文館) 

遊女・芸者、飯盛女・夜鷹など、性を商品化された女性の実態を、梅毒や性愛問題も視野に入れながら描き、売買春を成り立たせてきた歴史的背景を女性史の立場から探る。現代の「売春」議論にも一石を投じる作品。

第17回受賞作  洪 郁如『近代台湾女性史 ー日本の植民地統治と「新女性」の誕生』(2001 勁草書房)

日本の植民地統治は台湾社会に何をもたらしたのか。1920年代の台湾に誕生した「新女性」という概念をめぐり、植民地での女子高等教育の展開、新エリート家庭の形成、婚姻形態の変化などを追いながら、台湾社会の変容を解明してく1冊。

第17回受賞作(特別賞)  黒田弘子『女性からみた中世社会と法』(2001 校倉書房)

中世の法、御成敗式目四十二条の解釈、村落祭祀と女性、家の継承などの中世の歴史書と女性史を解析し、「女の視座」から中世社会と法の解釈を捉えなおした作品。

第16回受賞作  該当なし

第15回受賞作  平田由美『女性表現の明治史 -樋口一葉以前』(1999 岩波新書)

明治の中ば、女性は「書くこと」を求めて闘い続けていた。「書くこと」は、明治維新の近代化の中で、女性が社会的空間に立つことを意味する。女性による文字表現と小説を分析し、その闘いの苦悩を描く。

第14回受賞作  沢山美果子『出産と身体の近世』(1998 勁草書房)

出産に焦点を当てることにより、女性の身体を<産む>身体として公的管理介入の対象とした権力と、社会共同体、民衆・家族という関係性の中で、近世の女性が妊娠・出産する自らの身体をどのようにとらえてきたか、という「身体観」を分析する。さらには、胎児や間引き(堕胎)への捉え方から、歴史的・社会的意味をも解明していく。

第13回受賞作  鈴木七美『出産の歴史人類学 -産婆世界の解体から自然出産運動へ』(1997 新曜社)

出産が産婆の手から医師の手に移ろうとしたとき、何が起こったのか。産婆世界から近代医学への一大変動期に出現した植物・水治療(自然出産)運動を歴史的背景を基に分析し、現代の出産観、人間観、自然観の葛藤と変動を解き明かす。

第12回受賞作  義江明子『日本古代の祭祀と女性』(1996 吉川弘文館)

祭祀・経済・政治が密接で不可分な古代において、女性の重要な役割についての解釈は、とかく祭祀に纏わる神秘性・巫女性が強調されていた。しかし本著では、女性不在の従来型歴史学的立場からの研究を全面的に問い直し、新たな祭祀の古代史像を提示していく。民俗学にも一石を投じる1冊。

第11回受賞作  勝浦令子『女の信心 -妻が出家した時代』(1995 平凡社)

古代末から中世にかけ、出家して仏道修行に励む多くの既婚女性がいた。妻・母親・主婦としての幾重もの制約の中で、彼女らはなぜ仏門に入っていったのか。社会に向けて発せられた個々の心意と行動を追い、そこでどんな社会的役割を果たしたのかを考察する。

第10回受賞作  藤田苑子『フランソワとマルグリット - 18世紀フランスの未婚の母と子どもたち』 (1994 同文館)

未婚の女性が出産までに経験せざるをえなかった苦難の生活と、その子ども達の生と死を、歴史人口学の資料を用いて辿っていく。歴史の中に埋もれていた人々の心の動きを浮き彫りにする新たな社会史。

第9回受賞作  福岡県女性史編纂委員会『光をかざす女たち -福岡県女性のあゆみ』(1993 西日本新聞社)

これまでの「男性中心」の歴史的考察を、女性が果たしてきた役割を中心に再構築した福岡初の本格的女性史。江戸中期から現代までの膨大な資料から、名もない女たちの実生活を1つ1つ鮮明に描き出し、現代女性に豊かな示唆と勇気を導き出す作品。

第8回受賞作  小檜山ルイ『アメリカ婦人宣教師 -来日の背景とその影響』(1992 東京大学出版会)

明治初期、聖書と十字架を携えて来日した婦人宣教師たち。彼女たちの活動の背景にある、道徳観・女性観・教育観などを、19世紀アメリカの女性史・社会史的観念に即して浮き彫りにし、さらに、近代日本に与えた影響を探っていく。

第7回受賞作  今井けい『イギリス女性運動史- フェミニズムと女性労働運動の結合』(1991 日本経済評論社)

イギリスにおけるフェミニズムの歴史と、女性労働運動史の研究を総合的に検証した1冊。これらの上・中層階級と下層階級の2つの運動が、相互に密接な関係を持ちながら進展したことを明らかにしている。

第7回受賞作(特別賞)  バーバラ・ルーシュ『もう1つの中世像 -比丘尼・御伽草子・来世』(1991 思文閣出版)

「中世文学とは、平安物語文学が堕落した文学史上の暗黒時代である」という通説を覆し、視覚的表現・言語表現の発展に着目し、絵巻・絵草子などの新しい作風を生み出した「文学革命期」と位置づけた新たな日本文化論。

第6回受賞作①  服藤早苗『平安朝の母と子 - 貴族と庶民の家族生活史』 (1990 中央公論社)

平安時代の母子関係を貴族と庶民の階層別に考察し、乳母と実母の役割分担、子育てにおける父親の権限など、古代の母性観・育児観を実例を元に検証している。現代の育児問題にもつながる1冊。

第6回受賞作②  服藤早苗『家成立史の研究 - 祖先祭祀・女・子ども』 (1990 校倉書房)

平安時代の「家」の成立過程と女性との関わりを紐解く1冊。祖先と祭祀の関わり、氏と家、女性と財産、子の元服と王権などを豊富な史料で検証した、「家」をめぐる貴重な家族生活史。

第5回受賞作  堀場清子『イナグヤ ナナバチ - 沖縄女性史を探る』(1989 ドメス出版)

「イナグヤナナバチ」は、`’女性は生まれながらに七つの罰を背負っている’という古くから伝わる言葉で、過酷な負担が女性に強いられていたことを意味する。その一つ「洗骨(腐敗した遺体を洗う)」から「火葬」への運動の高まりを機に、女性リーダー達がいかに男尊女卑の風潮に対抗していったかを、綿密な調査をもとに解析した衝撃的な作品。

第4回受賞作  久武綾子『氏と戸籍の女性史 -わが国における変遷と諸外国との比較』(1988 世界思想社)

現代社会においては、働く女性の増加と男女の平等の観点から、夫婦同氏の原則に異議を唱える女性が増えている。こうした潮流の社会的背景を、女性史と比較法の視点から、氏と戸籍の問題を歴史的に紐解くことによって導く、興味深い1冊。

第3回受賞作  該当なし

第2回受賞作  近世女性史研究会編 『論集・近世女性史』(1987 岩波新書)

封建社会の町や村に生きる女性たちを、膨大な史料を用いて、経済的・法的・社会的形態など多方面から分析し、9編に編集した作品。近世女性史研究に新たな視野を切り拓き、現代の女性問題にも多くの示唆を与える1冊。

第2回受賞作(特別賞)  粟津キヨ『光に向かって咲け ー斎藤百合の生涯』(1987 岩波新書)

「弱いものがどう扱われているかによって、その国の文化程度がわかる」と言い続け、盲女性のために苦闘した斎藤百合。幼児失明の不運を努力と天性の明るさで乗り越え、4人の子育てをしながら本校第一期制となった彼女は、「盲女子高等学校」の設立を目指す。百合に親しく導かれた著者が、知られざる先覚者の姿を描き出す。

第1回受賞作  脇田晴子他編『母性を問う - 歴史的変遷』上・下(1985 人文書院)

古代から現代までの母性観とその変遷を時代毎に鋭く追求し、今日の母親像に纏わる問題を考察する糸口となる作品。第1回「女性史青山なを賞」受賞作品。